概要
2021年時に比べて今回2024は、下記の変化が見られました。
変化点:
- 全体的に動きが滑らかになった。
(2021の時は、肩・腕・脚に力み。左右で偏ったリズムが感じられた) - フォアからフラット着地になり変化
- 前傾がより強くなった。これにより、重心の真下に近い着地になった
- 加えて、脚振りの左右差が無くなり、偏ったリズムが消えて両脚が滑らかに動いている。
- 着地の時、O脚気味だったのが軽減されている(フラット着地になったためか)
- 上腕の前方・後方とも振り幅が大きくなった(体側より前まで上腕が出る)。
前腕の振り幅が小さいくなり。 - 身体の横揺れも減っている。
- 骨盤ドロップ(着地時の骨盤が傾く現象)が大きくなっている。
変化してない点:
- 右脚の蹴りが強く上下動の左右差がほとんど同じ傾向。
- 肩と腰の回転は以前とほぼ同じ。
- 前傾姿勢の中で反り腰が強い。
解析したランナーについて
大竹さんは、45歳でマラソンを始め、50歳を超えてから何度もPBを更新し(現在2:33分)、年齢別タイムで1位を続けています。練習は、月間700kmかつ、フォーム改善を継続的に行ってきています。今回含め過去3回(2019、2021, 2024)のフォーム解析を行いました。本レポートでは、今回2024年56歳のフォームが2021年53歳と比較し、どう変わったのかを中心に解析しました。
Viewer(アニメーション&グラフ)で見る際は、下記のランナーを選択ください。
(PCでブラウザーを2つ立ち上げて並べると比較しやすいです)
今回(2024年)
前回(2021年)
主な指標から見たフォームの特徴
一般的指標 | コメント | 2024 | 2021 |
---|---|---|---|
スピード km/h | 今回は本番に近いスピード (フル換算で2:22分相当) | 17.8 | 21.1 |
平均ストライド mm | 速度考慮し妥当な変化量 | 1423 | 1536 |
ストライド/身長比 % | 同上 | 80 | 86.3 |
ピッチ 歩/分 | 同上 | 209 | 229 |
身体(頭)上下動 mm | 同上 | 66 | 55 |
接地時間GCT msec | 同上 | 145 | 129 |
着地時間GCT/周期 % | 同上 | 25.3 | 24.5 |
空走期間/1歩期間 % | 同上 | 49.4 | 50.9 |
上体姿勢 | コメント | 2024 | 2021 |
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上体の前傾 | 前回より前傾が強まった 反り腰 | 頭・胸・腹腰 10・7.5・15 | 0・11・13 |
上体横揺れ | 揺れが減った。 | 右に偏り 1度 揺れ幅 2度 | 揺れ幅8度 |
骨盤ドロップ | 前回より着地時の骨盤傾斜おおきい (ギリ正常範囲) | 4度 | 2度 |
骨盤の回転 | 標準範囲 | 8度 | 10度 |
肩の回転 | 標準範囲 | 20度 | 21度 |
着地関連 | コメント | 2024 | 2021 |
---|---|---|---|
着地足タイプ | フラット着地に変わった | 両足フラット | 両足フォア |
プロネーション | ニュートラル | ニュートラル | |
着地時足向き | 前方 | 若干外旋し、前方外側から接地 (フォア着地で一般的) | |
膝の瞬間的なブレ | なし | なし | |
腕の振り | 特徴や変化点 | 2024 | 2021 |
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上腕の振り: (前方後方向) | 上腕が体側より前まで 振り幅も大きくなった | 左:前 -18度 後70度 右:前 -10度 後70度 | 左:前 0度 後40度 右:前 0度 後50度 |
前腕の振り (肘の曲げ角度) | コンパクトになった | 左57ー 64度 右32ー 51度 | 左50 ー105度 右50 ー 94度 |
肘の横広がり | 肘の横へ張り出し大 | 左 27度 右 42度 | 左 20度 右 35度 |
肘の後方への引き | 肩甲骨の動きが良い | 背中へ引いている | 背中へ引いている |
腕振りによる回転 | 腕の前後方向の振りの成分が増えた | (数値化検討中) | 腕・肘を回して上体を回転させている |
下記脚振りについては次も参照
脚の振り グラフ解析へ | 特徴や変化点 | 2024 | 2021 |
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大腿の前後振り 最大角 | 右の前方振りが抑制された | 左:前 -38度 後31度 右:前 -39度 後22度 | 左:前 -42度 後33度 右:前 -52度 後27度 |
下腿の前後振り 最大角 | 変化少 | 左:前 -6度 後104度 右:前 -8度 後 99度 | 左:前 -6度 後 98度 右:前 -5度 後 99度 |
接地する瞬間の 大腿角 | 変化無し | 左 -33度 右 -32度 | 左 -34度 右 -32度 |
接地する瞬間の 下腿角 | 左下腿が以前より垂直付近で着地 | 左 -3度 右 5度 | 左 12度 右 5度 |
接地する瞬間の 膝屈曲角 | 左膝が以前より伸びた状態で着地 | 左 30度 右 37度 | 左 45度 右 37度 |
着地中の 膝屈曲ピーク角 | 着地時の膝の曲りが減る | 左 45度 右 47度 | 左 53度 右 51度 |
大腿の回旋・内外転 | 解析中 | 解析中 | 解析中 |
グラフによる動作解析
頭/上体の上下動 Head vertical oscillation
今回(2024)と3年前(2021)とで傾向がほぼ同じであった
- 右脚の蹴りの時の方が高く跳んでいる
- 着地での下降ピーク高さ(descent peak)は、左右着地で揃っている
脚振り
膝の屈伸の左右差が大きく減った
以前2021年は膝の屈伸の左右差があったが、今回(2024年)は左右差がかなり減少している。
(図は、左右の膝の角度変化を重ねて、変化がわかりやすいように表した)
膝の屈伸の変化範囲が減少(速度減に連動したもの)と左右差減
- 以前よりも振り幅が狭くコンパクトになっている。
(計測時の走る速度が遅いためもある) - 左脚の膝を後ろから前に振る際の膝の畳み込み(Knee folding)が、右膝と同等に曲がっていて、前方への振りの効率が上がっていると思われる。
速度変化(head speed)
着地の瞬間にブレーキ
速度の評価は測定誤差なのか、本当にフォームの特徴が表れているのが、判断が難しかったのですが、2つを比較すると同じ傾向が再現していました。
- 右脚着地でのブレーキングと加速が強い
- 着地した瞬間に急減速(speed down)し、素早く加速が始まっている。
これは多くのランナーでは着地の中間期でブレーキと加速が切り替わるのとは異なっています。
着地直後から加速モードに入る前傾姿勢
身体を棒と見立てた時、上体と着地足の支点を結ぶ直線の傾斜が、着地後の早い期間(#25)に前方に傾斜しているため、加速の開始が早いフォームと推定される。
これは、重心の真下に極めて近くに着地していることと、前傾姿勢による効果と考えられる。
一般的には、遊脚の大腿が支持脚の大腿を追い越すタイミング(#27)で加速開始(通常は着地期間の中央付近)となるデータがほとんどなので、大竹さんのフォームはブレーキ損失が少ない走り方。
着地時骨盤下降 Pelvic Drops on landing
着地の際に、遊脚側の腰が下がる現象が見られます。(海外ではPelvis Drop or Hip Dropsなどと呼ばれています)
今回は、3年前よりも強く出ています。骨盤の傾きに換算すると約4度程度となり、海外の報告によると男性で5度以上(女性で7度)は過剰傾斜になり、フォームに悪影響がでるので、注意しましょう。
図は、左腰につけたマークの縦方向の位置変動を示します。右脚着地のときに、反対の左側の腰のマーカーが左着地時の位置より約30mm下がっています。これが、骨盤ドロップです。
骨盤ドロップの見積もり方
上記のイラストのように、腰の左側につけたマーカーを左側のビデオで撮影するので、情報は左側の変化しか計測していません。左脚が着地したとき、右側の遊脚が降下しても、左側のモニター位置の変化は無いとして、右脚着地した時に、左遊脚の下降で位置が変化します。そのため、着地時の左右の腰の位置の差をとって骨盤ドロップとして評価します。ですので、あくまでも右着地時の左側骨盤のドロップの値でしかありません。
腰の基準点を頭の位置に持ってくることで、腰の変化を評価したものが、Head-Hipになります。
骨盤下降とは:
着地時に遊脚側の脚が、それ自身の重みで下がるときに、骨盤がつられて傾く現象で海外ではPelvis Drops(Hip Drops)などと言われています。程度軽いものは比較的多くのランナーで観察されています。中臀筋を鍛えると改善すると言われています。
過剰な骨盤ドロップは下記のような因果関係の弊害を引き起こす場合があります。
(参考記事では、男性で5度以上、女性で7度以上が過剰な骨盤傾斜)
着地衝撃が大きく、中臀筋がその力に耐えられないと、
→ 着地脚の反対側の遊脚が脚の重みの慣性力で下がる
→ 骨盤がその遊脚に引っ張られて傾く
→ 一方バランスをとるため上半身が反対側(支持脚側)に傾く(アニメーション参照)
→ 左右の上体の横揺れを抑えるため(代償として)腕振りで肘が横に広がる
→ 肘を広げた腕振りは体の回転を発生し、体の前で前腕が交差するフォームになりやすい
回転は前進の力としては使ってないため、これら一連の動きは、総合的に見るとエネルギー効率の悪化になる
腰の高さ変動 (頭を基準 Hip-Head Vert.)
上体が着地で屈んだり伸縮しない前提で頭の高さを基準にして、腰(骨盤)の変化を見たものです(あくまで左側のみの腰の変動を計測となります)。
2021年の時は、2歩で1周期となる緩いサインカーブが見られましたが、2024年は右着地時に左の腰に有意な変動が見られます(右側を撮影してたら、右の腰にも同様の変動があると推定されます)。
支持脚の着地後素早く遊脚側の股関節を持ち上げる意識にフォームを変えた(大竹さん自身のコメント)ことに関係し、着地中盤に左側骨盤が挙がっているためと解釈できると思います。
(骨盤ドロップと上体姿勢の伸縮でも影響するので計測値の詳細な解釈がまだ追いついていません)
腰の前後の変動(頭を基準 Hip-Head Hori.)
図は左腰につけたマークの頭を基準とした変動をしめします。縦軸は下向きがより前方に移動する方向を表してます。(多くのランナーは単純な腰のサイン回転に各自固有の変化が乗っかっていて、運動解析的には難しい項目になっています)
下記は暫定の解釈です。
2024年では、右脚着地の始まりとともに腰は前方へ移動し