マラソンにおけるピッチとストライドの傾向

分析:テーマ編

陸上トラック競技の長距離選手が、駅伝やハーフやフルマラソンを走ることは多いので、フルマラソンにしても走り方の基本は、「省エネでより速いフォーム」という目指すところは一応同じと考えていいと思います。実際、本やメディアに登場するトレーナは、市民ランナーに向かって現役の陸上選手のようなフォームに暗に近づけようとする指摘で溢れています。

体力も筋力も劣る(しかも多くの場合体重も重い、何より年齢が大分上)市民ランナーにとっての理想フォームが、若い現役の陸上選手と同じかどうかは一旦おいて、参考になる共通点もあるはず。
そのヒントを探るために両者をおおまかに比較してみました。また、マラソン選手のトッププロの走りとも比較してみました。
(このページで使用したグラフは、ここの<フォーム指標を他ランナーと比較する>のグラフで非会員でも試せます。興味持っていただければ会員登録(無料/有料)もお願いします)

スピードとピッチ

マラソンランナーで速いランナーはピッチも速くなる傾向ですが、20km/h当たりで、陸上長距離選手と同等のピッチに達して居ます。そして、陸上選手のグループは速度が速くても、ピッチは必ずしも上がっていません。また、陸上選手より遅いマラソンランナーがピッチで上回ってるランナーも居ます。これはどうなっているのでしょうか。

グラフ1 スピードとピッチの関係

スピードとストライド

スピードとストライドをグラフにしてみました。ストライドは身長にも影響を受けるため、単純なストライド長とストライドを身長で割った%比でプロットしたものを、グラフ2.1とグラフ2.2に示しました。

単純なストライド比較

グラフ2.1だと、マラソンで20km/hを超える速度のランナーのストライドの伸びがなくなっていること、大学陸上選手は引き続き、ストライドがスピードととも伸びているのがわかります。
また、女子1名と男子2名が傾向曲線からやや外れています。

グラフ2.1 市民マラソンランナーと大学陸上長距離選手のスピードとストライドの関係

ストライド身長比で比較すると直線的な関係

一方、ストライド身長比でプロットしたグラフ2.2では様子が異なって見えてきます。
身長を考慮したことで、傾向が比較的単純になり、マラソンも長距離の関係がほぼ直線に乗ってきて居ます。特に、女子1名がストライドだけでみると外れていましたが、身長を考慮することで完全に直線に乗っています

その結果、外れ値はマラソンの2名だけになりました。この両名は、この時かなりのピッチ走法で走っていることがわかります。ちなみに両名は、フルのPBが2:49と2:33と市民ランナーの中でも特に速いランナーであり、測定時に特にピッチが上がったものと思われます。

グラフ2.2 市民マラソンランナーと大学陸上長距離選手のスピードとストライド身長比の関係

ピッチ走法とストライド走法

スピードはストライドとピッチの掛け算で決まります。そのストライドとピッチは個人差やスピードでなので、スピードとストライドの関係がどうなっているか、直接比較してみましょう。

ストライド走法
1歩で遠くへ跳ぶため、着地衝撃が大きいこと、地面からの反発力を有効に使うため、(衝撃は吸収しないで)硬いゴムのような強い弾性を持つ筋肉や腱が必要となります。

ピッチ走法
ピッチを増やしその分1歩を狭くすることで、着地をソフトにすることができ、筋肉や関節にかかる衝撃を減らす走法です。筋力の相対的に低いランナー向きと言われて居ます。

ピッチとストライドの関係を比較したグラフ3から次のことがわかります。

  • 陸上選手は全員がマラソングループよりも、ストライドが広くかつピッチも200を超えた高ピッチとなっています。その中でも、ピッチが210弱の4名はストライド走法、225の選手はピッチ走法に分類できそうです。
  • ピッチ180以下のマラソンランナーは、ストライドとピッチの相関に幅があり、ストライドが狭い2名(ピッチ走法とし)と広い2名(ストライド走法とし)が明らかに分かれるので、間に実線を引いたみました。無理に分類すれば、線の上がストライド走法、下がピッチ走法と言えるかもしれません。
  • さらにマラソンで高ピッチ(180付近より多い)の場合は、ストライドがもう伸ばせてないことから、分類としてはピッチ走法と判断しました。
    スピードを上げようとした時、ストライド走法は強い筋力や腱が必要なので、走力ある市民ランナーが、若い陸上選手と同じストライド幅で走るのは無理があると思います。
  • また、グラフ中のピッチ180にある丸印の選手は、トップクラスの選手のジョギング中の値です。ピッチもストライドもまだまだ余裕のある領域で走っているため、どちらの走法とも言えない中間の位置(線上)にあるようです。

このグラフに自分の値を当てはめると、大体どちらの走法なのかの目安になると思います。

グラフ3 ピッチとストライドの関係

補足:
計測のための撮影ではほとんどの市民マラソンランナーは、(遅いランナーも速いランナーも)あたかも5km、10kmのレースでPBを出すかのようなペースで走っていまいがちです(疲労がないので走れてしまう)。本来の走力よりも、高ピッチだったり、広いストライドだったりします。でも、とりあえずは、疲労がない時の走りなので、そのランナーがもつフォームのその他の特徴(クセ)は保持されているようです。
なお、陸上選手の場合は、本番レースをイメージした走りをしてもらっています。

一流選手のピッチ走法とストライド走法

次に、JAAF(日本陸上競技連盟公式サイト)に一流マラソン選手のピッチとストライドの表が掲載されていました(表1)ので、引用させていただきました。
身長によりストライド長も影響を受けるため、ストライド/身長比も示されています。その比率の大小からストライド走とピッチ走を勝手に分けてみました。高岡選手は100.7%で、どちらか迷いましたが、一般的には綺麗なストライド走法選手として知られて居ます。

女子は男子よりも身長が低いだけでなく、ストライド/身長比の平均値が5%以上も小さいことから、脚の筋力差が影響しストライドが男子より狭いのかもしれません。
また、女子の8割がピッチ走法を選んでいるのも同じ理由と思われます。

ピッチとストライドをグラフにプロットしました。番号は、表の選手につけた通しNo.です。

市民ランナー・大学長距離選手とマラソンの一流選手と比較

市民ランナーと大学選手については、ストライド身長比を求めてないのですが(今後行う予定です)、グラフ5を見て気づくことを挙げます。

  • 大学陸上選手(5k、10km)のストライドはフルマラソンの一流選手並みで、ピッチは速い(種目差起因)。大学陸上選手の3人はストライド走行と言えそう。
  • ピッチ180以下の市民マラソンでストライドが広いランナーは、本人の体感的には頑張ってストライドを広げて走っているフォームと思われるが、一流選手とこんなにも違うのかと新ためて感じる。(滞空時間の差を調べたい)
  • ピッチ210を超える市民ランナーは、計測用のビデオ撮影とは言え、ピッチが高過ぎのようです。
グラフ5 市民ランナーと一流選手とのピッチとストライド比較

最適なピッチ数

先に挙げた一流のマラソン選手のピッチは男子で180から200程、女子で190から210でした。走法が違っても、ピッチは20程度しか変わって居ません。一般ランナーでも達成できる歩数です。
また、個人が速く走っても遅く走っても(持久走の範囲)、その時のピッチはあまり変わらないと言われます。そこで、ピッチに関して有益な先行研究が多々あるので、一部引用しました(グラフ6参照)。

最適なピッチに関しての研究より引用

ピッチ数と酸素摂取量や心拍数との間にはU字型の関係性がみられる例えばIain等のOxygen Uptake vs. Stride Frequency)より、そのランナー個人にとって、もっとも省エネとなるピッチ数があり、それより多くても少なくても疲労度が増すという関係があると言われて居ます。そして、測定値とその人の体感値は概ね一致している。
(エスアンドシー株式会社様(斉藤、長谷川)のweb掲載の「ランニングにおける最適なピッチ数とその見つけ方」を参考にさせていただきました)

種々のネットでの情報を参考にすると、U字カーブの底の値(最適化されたストライド周期(optimal stride frequency)は、ピッチ数180付近と推定している人が多いようです。
確かに、筆者自身の体感としては、疲労が無い状態でペース走をするとピッチ178付近が楽に感じます。しかし、ストライドを維持したまま、ピッチを185に上げると途端にキツく感じるし、170まで落とすと走りにくい感じがします。体感的にも、狭い範囲にちょうどいいと思えるピッチ数があるようです。

グラフ6. 酸素消費量とピッチ数の関係 
HUNTER, Iain; SMITH, Gerald A. Preferred and optimal stride frequency, stiffness and economy: changes with fatigue during a 1-h high-intensity run. European journal of applied physiology, 2007, 100.6: 653-661. Fig.1 

最適ピッチについて他の競技との類似性

トライアスロンなど持久系のロードバイク競技では、ペダルを漕ぐ回転数(ケーデンス)を100にしなさいと言われています。左右の脚の動きをランニングと同じ基準にすると、実はピッチ200になり、前述のランニングの180に近い値となります。
競技を始めた当初は、ケーデンス100は苦しく直ぐ息が上がる状態でしたが、トレーニングを積んで、長距離レースの最中は、平地を最も効率的に巡航スピードで走るには、この100が最も省エネの値だと実感しています。

このように、ランニングとロードバイクと種目は異なりますが、持久系スポーツにとって脚の筋肉を繰り返し動かす動作には、疲労しにくい適切なピッチがあるのでしょう。

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