腰・骨盤の回旋

分析:テーマ編

骨盤(腰)の動きはランニング以外の多くのスポーツでも非常に大事とされています。しかし、実際には、具体的どのように動いているのか余りデータを見かけることがありません。腰に慣性センサをつけて測るのが一般的かもしれませんが、フォーム全体の中での動きとして解析されることがさらに少ないようです。そのため、腰の動きの指導をするときは、個人的経験と一般論をベースにかなり漠然とした理論で語られることが多いと感じます。

リアルビジョンスポーツでは、光学的手法で腰の動きを3次元計測し、身体全体の動きの中で骨盤の動きをモデル化し、計算アルゴリズムの最適化により特徴的な腰の動きを計測することが可能になりました。

骨盤の主な3方向の動き

腰・骨盤の主な動きには、表と図1に示す3種類があります。
このうち、ここでは骨盤の回旋についてレポートしていきます。

骨盤の動きの種類 解剖学的用語 よく使われる別称 対象面
左右へのねじれ 回旋
(rotation)
骨盤の横回転 水平面
(transverse)
前後の傾き 前傾・後傾
(anterior/posterior tilt)
骨盤の前後回転 矢状面
(sagittal)
左右の傾き 傾斜
(lateral tilt)
骨盤の左右傾き 前額面
(frontal)

図1 骨盤の各動きのイラスト


骨盤回旋とその目的

骨盤を意識的に回旋させなくても走ることはできますが、積極的に正しく回旋させることで、前方への推進力を得たり、ストライドを伸ばす働きがあります。そのため、骨盤の動かすタイミングや振幅の大きさなどを意識的コントロールして行うことはパフォーマンスを上げる為に重要です。

また、マラソンでもスプリントでもこの回旋運動は、程度は異なっても、同じ動き、同じ機能を持っています。参考に表2に一般的な知見を列挙しました。

表2 骨盤の回旋の働き(AIによる回答)

要素 マラソン スプリント
(トップスピード)
横回転角度 小(5〜10°) 大(10〜20°)
回転の目的 推進力補助+ストライド確保 推進力の主因/脚の加速力増加
体幹の動き 滑らかで小さなツイスト 強力かつ瞬発的なトルク
エネルギー効率 無駄な動きを省く 反動を最大限に活用
必要筋力 体幹安定性重視 体幹の爆発的トルク生成


骨盤回旋の動きの概要

図2は、これまで解析した内容をベースに典型的な骨盤の動きを空走期間と着地期間で示しました。
骨盤の回旋運動は、着地期間で主に発生し、両足が地面から離れた空走期間では回旋動作が少なくなります

空走期間の骨盤の回旋

両足が地面から離れている空走期間は、回旋角度そのものも小さく(骨盤がほぼ正面を向く)、かつ角度変化も小さいことが特徴です(図2の①、③、⑤)。
これは、身体が地面に固定されている部分がないため(慣性力しかない)、骨盤を大きく動かそうとすると空中での身体のバランスが崩れるため、積極的な動きは起こせません。
また、腕振りなどに連動した胴体の捻転による回旋は可能ですが、エネルギー的には無駄な動きなので積極的に大きい動作としてはやりません。
その結果、空走期間では、着地直前の脚振りの変化に応じたバランス補償の為の、非積極的な小さな変動になっています。

着地期間に骨盤の回旋運動が大きい

続いて、片方の足が着地すると、その着地足を支点にして、着地してない遊脚側の骨盤が前方に出る方向に回転する、つまり回旋運動を起こすことができます(図2の②と④)。
この回旋は、マラソンでゆっくり走る場合は意識しなくても自然にある程度発生しますが、ストライドを伸ばしたり、前方向に補助的にでも推進力を得るためには、適切なタイミングと力で行うことが必要と思われます。

図2 骨盤(腰)の回旋とフォームのタイミング

実測例

典型的な骨盤の回旋の実測例

骨盤の回旋の仕方(タイミングや強さその時間変化)はランナーにより異なりますが、ここでは典型的な動きを示した長距離選手(10km走、大学生、箱根駅伝選手 1-1-1:10000 M Age 22 PB 20:07 Sugi)の実測値を例に詳しくみていきます(図3)。

  • 両足が空中にある空走期間①では、骨盤は5度前後の左回旋で変化は少ない
  • 次に、②の右足着地期間(Right Landing)を見てみましょう。
    着地直後から骨盤の左回旋が発生し(②a)、着地期間の中間で変化のピークとなり、
    後半は足が地面を離れるまで骨盤の回旋量が減って行ってます(②b)。
  • 離地後の空走期間③では、−4度前後の弱い回旋角度をしばらく保ったままで変化は少ない。ここの回旋角度が直前の空走期間①と逆符号であることが、このランナーの特徴です。他の選手ではともにここの回旋がゼロのランナーもいます。
  • 左脚が着地すると(Left Landing)、右脚着地と同じような回旋の動き(回旋方向は逆)がみられます(④a)。変化の形とピーク値が左右とも同じ程度なので、左右バランスが良いフォームです。
  • 空走期間の①と③で骨盤の弱い回旋角が互いに異なっており、それらの回旋の方向が、続く着地②や④の回旋の値と逆であることがこの選手の特徴の一つです。
    これは、着地の直前に逆の回旋角度から動くことで、より大きな骨盤回旋の反動を得ようとしている動きだと思われます。

図3 腰の回旋の実例 (10km長距離の大学生選手)


高精度3D Motion Capture によるランニングフォーム分析
3D Animation by RealVisionSports

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