分析/着地/着地タイプの走行速度への影響(陸上長距離)
着地における接地のタイプ解析
地面に最初に接地する足の部位に応じて、forefoot(つま先着地)、flat(フラット着地)、heel (かかと着地)に大別されている。
実際はその中間もあるし、人により左右の足で差があることも多い。
また、マラソンの速度においては、経験上レースペースよりも速く走ろうとすると、歩幅を広くなり、それ起因でヒール着地が強くなったりする。また、ウォームアップ不足で体が固いと、ヒール着地になりやすい。
このように、着地はその時の条件により多少変化するようである。
fore
flat
heel
着地の良し悪しの検証
heel着地はブレーキになるから良くないと言われるが、ここでは実際に本当かどうか気になっていたので、大学陸上部の現役選手(上智大生、慶応大生)のフォームデータを解析した。
その結果、ランニングの速度の変化の模様が、個人差よりも着地足の違いでグルーピングされることが分かってきた。
(1)速度の変化と着地の様子 (大学陸上部選手 中長距離(800m〜3000m)+箱根駅伝)
マラソンよりは高速な競技の選手で着地と速度で明確が周期性の変化がフォアとフラット着地で見られた。
フォア着地 > フラット着地 > ヒール着地
の順に変化の程度も大きい。しかも、速度の遅い速いとは必ずしも相関は強くない。
(グラフはフレームあたりの速度の推移。写真は接地した瞬間のフレーム)
フォア着地
3人とも綺麗ではっきりとした速度変化を示している
フラット着地
フォアのランナーよりは振幅が小さいが、明瞭な変動傾向を示している
ヒール着地
3人とも速度変動が小さく、特徴的な傾向は現れてない
(2) 速度変動の考察
サインカーブが明瞭な025の選手(箱根駅伝学生選抜の慶応大の杉浦選手が、現役引退後の計測ラン)で、ランニングフェーズとの関係を調べた。
速度グラフより、速度変化のサインカーブの極小極大点が、それぞれ着地期間と空走期間と綺麗に対応が取れていることがわかる。
大まかには、空走期間中から速度が低下し始め、地面を蹴ることで再加速されていると見ることができる。
フォア着地では、最初足前方の母指球にが接地し、そこを軸として体重がかかり、足底+アキレス腱+ふくらはぎ+ヒラメ筋などが急激に伸ばされる。その反動として、直後に筋肉(と腱)の伸長反射が起き、自動的に(勝手に)地面を急激に強く押して、跳躍力を生む(地面の反発力)。姿勢もこの時、前傾となるため、効率的に前方向への推進力として加速に使えるという理屈になる。
ここで、伸長反射とは、筋肉が急に引っ張られたときに、筋肉が伸び過ぎてダメージを受けることから守ろうと、脊髄反射的に筋肉が収縮する生理現象。
一方、ヒール着地では足の着く順番が、中足、つま先と順に前方に回転するように進む。このため、フォアフットのような関連する筋肉や腱に急激な伸長がないため、伸長反射も生じない。つまり、着地で脊髄反射的に短時間の筋肉を収縮が起きないため、その作用による再加速が起きないものと思う。
そのため、前方への加速は前傾姿勢の時の後足の筋肉収縮(や弾性反発力)のみとなり、速度を上げるには不利である。
(3)身体の上下動との相関
体を空中に浮かすのは、地面を蹴ることで生まれるので、身体の上下動も着地のフォームで影響がないかを調べた。
前出のフォア着地の選手の上下動の変化は、速度の変化と同相のサインカーブを持つっていた。
また、ヒール着地の選手(020)の場合も、上下動変化は着地期間を極小点として、綺麗なサインカーブを示していて、フォア着地と同等である。
フォア着地(025)
ヒール着地(020)
速度変化は不明瞭だが、上下動はフォア着地の選手(025)と同じ程度に綺麗なサインカーブを示している。
市民ランナーの場合
市民ランナーでは、速度変化の着地との相関がどうなるか調べた。
図に示す市民ランナー4名ではいずれも、速度に大学陸上選手のフォアとフラットで見られたような、サインカーブのような特徴的な傾向が見られていない。
最上段のotakeさんは、フォアフットで現在もサブ2.5で走るランナーでもあり(年代別1位)、今回の計測のランで3’/kmに近い速度で走れている。若い陸上選手と異なるのは、バネの違いかも知れない。
otakeさんは、常日頃人一倍フォームの研究と改善に取り組んでいるため、バネが若い人とは違っても、フォームの工夫で速さの持久力を実現していると思われる。この秘密は、今後も研究させてもらいます。
マラソン・長距離種目での着地タイプのまとめ(フォア、フラット、ヒール)
20歳前後の若い選手は、フォアフット、フラット着地により、着地衝撃を足の伸長反射による前方への推進力に換える走りをしている。ヒール着地では、その効果を使えない分の速度を稼げない。
足の筋肉の伸長反射が弱いランナー(例えば、加齢、過体重、怪我起因)は、伸長反射が使えないため、特にフォア着地の形だけ真似するトレーニングは、故障リスクが増す。
ヒール着地にかんして従来説明によく使われる「ヒール着地はブレーキになる、足に衝撃がかかり故障の原因になる」という説明は誤解を生む言い方だと思う。
伸長反射が使えないため、再加速が出来ない走法だと理解すれば良いと思う。
また、フォア着地よりも、大転子(股関節)や背骨への衝撃が小さいので、体幹が弱い人向き。
加えて、かかと、中足、母指球と接地で足を滑らかに転がすことで、着地の衝撃(足だけでなく、骨盤や背骨への衝撃)を分散して減らせるため、全身の疲労感が少ない。
それぞれの走法にはメリットデメリットがあるようなので、現在一般市民ランナーがサブ3.5を以上を目指すには、弱いヒール着地からフラット着地が、怪我のリスクが少ない。
今後の掲載予定:
- 短距離選手の走法解析
- ヒール着地からフラット・フォア着地で走るフォーム変更について