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着地時の脚のフォームと関節角度の定義:
動作解析について
自分のフォームを理解するには、客観的で立体的な動きを頭の中で再現し、体感と合わせて行くことが近道だとの思いから、3次元のアニメーションを作成しています。このアニメーションを作る過程で、生体力学的に関節の動きを3次元で解析しています。その一部を取り出して写真やグラフで説明いたします。
是非、何度も繰り返しアニメーションを観て、他の人と比較しながら、フォームの理解と改善に役立てていただければ嬉しいです。
解析結果サマリー(2021.11.28)
- 上下動、左右差など揺れが少なく、力みのない全体的にスムーズな動きです。
- 両足とも「かかと着地」が強いです。撮影時の走行速度が速いため、ストライドを広がりこの傾向が強くなった可能性がありますが、前腿の上がりが少ないので基本的にはかかと着地のフォームです。
- 左脚ストライドがより広いですが、右脚の後の蹴りが高いのも、反作用のためですが、左右差が悪さをしてはいないと思います。
- 脚の振りはほぼ真っ直ぐに前に出ていますが、一直線上を走る意識をしているため、脚を前に出すとき、膝が左右とも若干内側に向く傾向があるようです(着地時は曲がってないので問題ないです)
- 後の蹴り足が若干外側に回っているので、ストライドを広くする意識で力みがあるかもしれません。(後に蹴るときに下脚に力が入っている)。膝下は意識して脱力がいいです。
- 膝はほぼ真っ直ぐ前に出て、足の爪先も前方を向いているので癖がなく良いです。
- 上体は軽い前傾(3〜6度)で、骨盤の前傾は大きく、反り腰になっています。レースの後半の腰の痛みの原因かもしれません。
- 腕振りは後コンパクトで後に引けていて、骨盤との連動も良いです。
(肩の回転は合わせ込みで15度、腰の回転は10度でアニメーションを作っています。)
総合的には、地面の反発力を使わず、脚力を使いスムーズな回転で歩幅を稼ぐ走りのようです。
ストライド幅が限界なので、今回はピッチでも稼いで走っていましたが、力みが少なく横揺れも少ないのは、基礎体力と脚や体幹の筋力がかなり強いためと思われます。
トレランにはやはり向いて居ますね。
筋力があるので、現状のフォームで膝や足の故障がないのであれば、かかと着地や反り腰を敢えて修正する必要は無いと個人的には思いました。(フォームの大きな修正はリスクがあるので)
以下は、フォームを分析した内容ですが、細かいのでじっくりと読んでみてください。
走行ペース(表参照)
(3、4回走ってもらった中の、1回目の走りを評価しました。各種数字は1回の走行の写真からの値であり、平均化されたものではありません。また身長をシューズ込みで1.58mと設定して、各種数字の換算をしています)
(表参照)
ペースが3’17”/km、ピッチが215と速く、平均ストライドが1.42mと、通常のレース時より速く走っていると思われます。
着地時間は150msec、左右平均ストライドは1420mmで、左脚が若干長いようです(1フレーム分)。
にもかかわらず、ブレとか左右の揺らぎなどもなく、安定した走りでした。
上下動評価からわかったこと(図参照)
左耳をマーカーにして、上体の上下動を評価しました。
上体が沈み込む量と上昇の量の左右差が無く、47mmの上下動は身長を考慮してもかなり上下動の少ない走りです。
参考に、着地衝撃の吸収のための膝の屈伸の程度をグラフの②と④に示します。母数が少ないのですが、膝が曲がり過ぎてはおらず、一般的には腰高のフォームの範囲だと思われます。
(補足:着地衝撃を吸収するには、上体が曲がったり、膝を曲げたりしますが、曲がる量が多いと前腿の筋肉を使って踏ん張り、次の動作でまた前腿筋肉を使って体を持ち上げるため、沈み込みが大きくなり、見た目はドスンドスンとした腰の低い走りとなります。これは、地面の反発力を使えてなく、筋肉内で無駄に消費してしまいます。)
着地時の姿勢(写真参照)
前傾・反り腰気味
肩から腰までは緩い前傾姿勢(アニメーションの合わせ込みでは3度から6度)。
骨盤が比較的強い前傾のため反り腰の姿勢となっています。
反り腰は、腰の負担が大きくなり、レース後半の腰の痛みは、このことが起因かもしれません。
着地の瞬間の姿勢 写真①、③ かかと着地
写真の①、③が着地の瞬間です。左と右ともに「かかと着地」となっています。
上脚が前に振るときあまり上にあがっていないため、膝が伸びたままのタイミングで地面に接してしまうことに起因しています。
今回の走りが普段より速いスピードで走っているため、前腿を前方に大きく振ることでストライドを稼ぐので、「かかと着地」が強く出た可能性があります。
体が最も沈んだときの姿勢 写真②、④
着地し体が最も沈み込んだとき(前述のグラフと写真②、④)の姿勢を評価しました。
頭、腰、支持足がほぼ一直線上にあり、且つ前傾を保っているため、重心が前方にあるので、支持足で地面を押して前方へ進む力を得ることができています。
さらに、このときの前傾姿勢がより強ければ、支持脚をけることで地面の反発力を前に進む力を得やすくなります。
補足:地面の反発力は「かかと着地」のフォームだと感じにくいかも知れません。
脚の回転の様子とストライド
今回の解析で、左脚のストライドが右脚より約10cm程長い(周期から求めた値)という結果が出ました(表参照)。
大きな差では無いのですが、参考になる点があるかもしれないので、少し説明します。
下記の写真#21の左脚の前方への振り出しは、#5の右脚の場合よりも前に出て居ます。
同時に、それぞれ遊脚側の後方の脚の振り上げ方を見ると、
#21の場合の右脚が左脚#5より上に跳ねて居ます。
これは、左脚を大きく振るとき、その反作用として遊脚側が後方にやはり大きく振る必要があるためだと考えて居ます。
その結果、軌跡でみると右脚(赤い円の軌跡)が大きく輪を描いて居ます。
速度を速くするときの癖として、左足で歩幅を稼いでいるかもしれません。
背面からのフォーム
着地動作にともなう、身体の左右の傾きは総じて少なく安定した走りになっています。
着地で身体が最も沈んだときをみると、
- 左脚着地(#26)では反対の右脚が重みで下降し骨盤が右側に少し傾く(多くの人に見られます)。
- 右脚着地(#9)では、骨盤の傾きが無い
一般に中臀筋、小臀筋が弱かったり、意識して使えてないと、着地で骨盤が遊脚側に傾きます。
Tさんの場合、左脚のストライドを広くする意識が働き、着地前(#4)から中臀筋を使って左側骨盤を高く維持できてるようです。
腰高な走りというのは、このように支持脚側の骨盤を高く動かすことも含まれていると考えられます。
参考:東大の小林寛道名誉教授の「スプリントマシンと骨盤の動きに関しての考察」
走行速度の変化の評価(今回試みとして実施)
かかと着地はブレーキになると良く言われるので、実際に着地時に減速しているのかを評価してみました。
速度は、マーカーの位置のフレーム間の移動量で表し、マイナスでも数字の大きい方が速度は速いです。
結論からいうと、かかと着地起因でブレーキになっているかどうかは手持ちのデータが不足で判断できませんでした。
1)頭部(耳をマーク)の進行方向の速度変化は、ばらつきの範囲で加減速は見られません。
(あったとしても、急峻な動きは首のところで吸収して見えない可能性があります)
2)肩のマークでの速度変化は、綺麗なサインカーブを描いています。
一周期内(33.5フレーム)に、右左の着地起因の山谷が2つ出るはずですが、それが無いので肩の回転や全体的な体の移動速度の変化が重なってる動きが見えているようです。
3)腰骨上部につけたマークでは、山谷が2つ見られ、それぞれの左右の脚の動きと対応が取れました。
速度が減速から加速に変わる点(山頂)は、先に示した上体の上下動の最下降点とも一致しているため、明らかに着地の前半の減速とその後の支持脚での加速の様子を示して居ます。
また、左着地の時ときの速度変化が急峻なのは、マークが左にあるため、左脚の着地の影響を直接受けるためと思います。
かかと着地によるブレーキが、ここの減速のところに現れているはずで、体感としての衝撃の量も表しているはずですが、比較対象がないので、引き続き検討し追記で報告します。
ヒール着地の時の足の様子
足先は前方を向いている(左足、右足とも)
着地は、外側のヒールから接地し始めている。(左足、右足とも)
プロネーションはニュートラル。(左足、右足とも)
フォアフットとヒール着地の比較
フォアフットとヒール着地のフォームの差を2名の方で比較してみました。
両足が空中で滑走する①から③までは、右足の角度がほぼ同じですが、着地が近づく④から接地の⑦と⑧の期間で、下脚の動きにヒールとフォアフット着地のフォームの特徴差が出ています。
(以下個人的な経験からの解釈です)
フォアフット着地(写真右側):
着地動作では膝を上げ続けて、膝下は脱力して(③と同じ膝の角度を維持したまま)空中を滑走して行く意識で走る。
その結果、着地位置が重心の下に近いのですぐに地面の反発力を感じられる。前傾姿勢を強めれば、より着地位置は手前にできると感じる。
ヒール着地(写真左側):
空走期間を全て使って足を限界まで前方に振り出すことで、ストライドを広くして距離を稼ぎたい。
着地瞬間の地面の反発が少なく、足首をうまく転がし、膝の屈伸で滑らかに移動するので、ヒール着地によってブレーキがかかっているとは体感してない。